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どですかでん

一筆啓上申し上げます。

只今NHK・BSでは黒沢明特集を毎月放映、先週末土曜日は「どですかでん」でした。
昭和50年の公開で吾輩としてはリアルタイムで観に行く事が出来る作品でありましたが残念ながら当時若輩だったが故に外国映画にハマり足を運ぶ事はありませんでした。

レンタルでもしようかとも度々思いもしましたが、当時の評価(設定が精薄な主人公で、これもまた吾輩としては遠慮がちになる原因でした。)などが気になり手に取る事もありませんでしたが、今回初めてテレビで観賞出来る事になりこれほどの映画は中々出来はしまいと思う次第であります。
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「六ちゃん」なる精薄な主人公は電車が好きで好きで雨が降ろうと毎日、朝から日が暮れるまで私たちには見えない電車を運転しているのであります。この電車の線路際では色々な人たちが生活しています。それぞれの登場人物は貧困に喘ぎながら過去や現在の生き様を背負って生きています。
その中を「どですかでん、どですかでん・・・・」と呟きながら六ちゃんは走り続けています。

映画冒頭で六ちゃんは存在しない(彼にとっては存在しています。)電車を丁寧に点検し発進させます。この行為はまさに我々が社会構造の中で、所詮何の意味も答えもない行為をしている事を表しているようで無性に悲しい場面です。

映画の大部分には六ちゃんのエピソードは余り出てきません。存在しない線路際で生活する貧困なる庶民を描いています。心優しき人も悪魔のような人も登場し、そんな心優しき人や悪魔でさえ夢や希望を見、貧困や自らが背負った十字架に負けてしまう人も淡々と平等に映画は描いています。
映画冒頭とエンディングで六ちゃんの家が映し出されますが、彼の部屋は色々な電車で埋め尽くされています。まさしく我々はそれぞれの見えない電車に乗って人生を歩んでいます。

吾輩は悲しくてやりきれないほど感動しましたが、現在の吾輩だから受け取れる映画だと思いました。少なくても今から十年以前にこの映画を観たところで何も感じなかったかも知れません。

最近、とみに思うのは年を積み重ねることによって映画、本、演劇、絵画等を観るにあたり深い意味を知る事が出来るようになりました。若き日に読んだ本や映画を再見しようとの思いになる今日この頃なのであります。
                                       拝具 茶巾*よのすけ
by yonosuke55 | 2008-11-16 21:29 | 観る
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